金 魚 の 話
 我が家には名もない金魚6匹がいる。立派な水槽や池があるわけではないが、もう20年以上に渡って代を引き継ぎ、子孫が継承されている。
 今年4月末頃にその金魚達が直径1mmくらいの卵を産み、5月初旬に一部が孵化した。現在、細い細い糸状で長さ3〜5mmの赤ちゃん金魚がたくさん泳いでおり、一体何匹いるのかも見当も付かない。
 彼らが住んでいる場所は親金魚がドラム缶の中、また、赤ちゃん金魚は雨樋の下に置いているポリバケツの中である。雨が降ればきれいな水になるが夏場の干天が続くと、ドラム缶の水は鉄さびで真っ赤になってしまい、住環境としては決して良いとはいえない代物である。夏場は酸欠状態が続くのであるが、彼らはしぶとく生き延びている。空気ポンプをつけることもなく、水を入れ替える事もしない。自然のままに…などと言っているがズボラな飼い主なのである。大雨が来ると、親金魚が流される事はないが、子供金魚は命がけである。流されないように防虫ネットなどでポリバケツの蓋をするのであるが、小さい体では網をすり抜けてしまう。その為、ポリバケツの下にまたポリバケツをおいて、またおいて、助かるようにしているが、3段目の外へ流されると庭の地面である。
 例年、成長して金魚の姿になる夏ころには、結局十数匹になっている。そして、この子供金魚が一年を超えるのは十匹以下である。こうして何とか子孫を引き継ぎ引き継ぎしながら、我が家のドラム缶にはいつも金魚が泳いでいる。
 さて、金魚が生きるのは「自然淘汰」である。生き延びる金魚はどんな個体か…、よくよく観察すると人間に似ていないこともなく、実におもしろい。それぞれに個体としての性格を厳然として持っているのである。生き延びるには、もちろん運も大きい。しかし、元気で丈夫な個体が生き延びるかというとそうではない。もちろん弱い個体は大きくなれないし、体力的にへばってしまうようだ。生き延びる個体はというと、体が大きいとかすばしこいとかいうだけではなく、非常に用心深く、人間を信用していないのである。“野生”そのものであり、「危機管理」ができているのであろう。
 元気で強くとも、天敵や人間、洪水に対して無警戒であれば、そこで命を落とす事になる。こうして、無数にいた子供達が、運をつかみながら“野生”として生き延びた数匹に落ち着く。これは、自然界では当たり前の生存競争であろうが、我が家の金魚の世界に見ると新鮮である。毎年産卵するわけではないので、増えすぎて困るということはなく、ちょうど適当な数が生存しているように見えるが、これも自然のなせる技なのかどうか…。
 平凡・弱者の人間としては、「元気で強い個体だけが生き残る訳ではない」というところにホッとするのである。

                        平成17年5月24日 中村 雄兒
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